生きることをとことん楽しむ暮らし。

東京都新宿区出身の落合真穂さん(42)は、都会で育った小さい頃から、自然の中での生活に憧れていたそうです。
栃木市出身の正明さん(35)と出会ったのも、アウトドアのイベント。
あくまで自然とともに生きることを目指す2人の暮らしと仕事とは、どんなものなのでしょうか。

今、栃木市でどんな暮らしをされていますか?

真穂さん 2007年の7月7日に結婚して、主人の地元である栃木市に2人で暮らすようになりました。今は主人のおじいちゃんの土地を利用して農業をやりながら、そこで獲れた野菜を使って「スマイルファームキッチン」という飲食店を営んでいます。農業と言っても、大量に出荷をするようなものではなくて、自給自足を目標に、生活の糧として実践しているんです。

正明さん 今の経済システムみたいなものから離れて、人間らしい生活をすることが目的だから、できるだけガソリンも使いたくないと思っていて。だから最初はトラクターも使わず、手で土を耕しはじめました。自分たちが食べる分を、食べたい分だけ、食べたい方法でつくるのが基本。あとはお店で使う分と、余ったら友達にお裾分けするくらいかな。自分の体に入れるものを育てることを考えたら、自然と化学肥料と農薬も使わなくなりますよね。

真穂さん そうそう。ビニールハウスもやっていないので、本当に旬のものだけ。ただ、それだけだと冬に獲れるものが少なかったり、完全な自給自足はまだまだ難しい。足りないものを買うために、最低限のお金も必要。2011年5月から移動販売をはじめて、2013年から飲食店をオープンしました。

正明さん ここは、2人の隠れ家的なみんなの集まるお家。

真穂さん もともと主人と出会う前、30才で東京の大手化粧品会社を辞めた時も「いつかは飲食店をやりたい」という思いがあったので、念願が叶ったというのはありますね。私が中心に料理はつくっていますが、今では主人もつくれるようになりました。もともとは工場の職人だったので、手先が器用なんですよ。

正明さん 食べる方が好きだけどね(笑)。僕はどちらかと言うと、大工仕事が得意なので、お店をつくる時の内装工事などには役に立ちましたね。今のお店は10年以上人が住んでいない民家だったのですが、妻が犬の散歩の途中でたまたま見つけて、近所の人に大家さんの連絡先を教えてもらって連絡をとったんです。最初はほんとうにボロボロだったから、床から壁から全部剥がして、解体して、漆喰も土壁も自分たちで塗りました。

真穂さん 私も大工仕事なんてやったことがなかったけど、やってやれないことはないんだなって。お互いの得意なことを活かし合えば、2人で生きていけますよ。

正明さん 生きる力はかなりついたよね(笑)。

今の暮らしをはじめて、よかったことを教えてください。

真穂さん 私の実家は東京の新宿区で、家に自動車もないくらい近場になんでも揃っている環境でした。一方、父親がアウトドア好きで、夏休みはキャンプに行くなど、時々は自然に触れていたんです。次第に田舎暮らしに憧れるようになって、30才には東京を出たいと思うようになりました。ちょうどそのころに栃木市出身の主人と出会い、バーベキューやアウトドアイベントに行く仲間ができて、はじめて栃木市ってこういうところなんだってわかって。自然も星もきれいで、単純に感動しましたね。

正明さん 新宿とのギャップは大きいだろうね(笑)。僕はもともと地元で父親と工場をやっていたんですけど、結婚してしばらく経ってから「自給自足生活がしたい」と思い立ったんです。妻も納得してくれて、おじいちゃんの土地を利用して自己流で農作業をはじめたんですけど、ほんとうに手さぐりの状態でした。

真穂さん 手で耕していたくらいだからね(笑)。

正明さん そうだね。農業をしていて何よりうれしいのは、スーパーで買わなくても、スーパーの商品より美味しいものが食べられること。化学肥料や農薬も使わずに、自分の体に入るものを自分の責任でつくる毎日には、生きている実感がありますね。

真穂さん 私も仕事より、生きることと向き合う生活を望んでいたので、ここでの暮らしがしっくりきています。あとは、農業やお店を通じて、人とのつながりがどんどん広がっていくことが楽しいですね。このお店にある物も、友達がつくった物だらけですから。

正明さん キャンドル、メニュー表の革、家具、あと電気屋も水道屋も友達だ(笑)。ミュージシャンや作家など、友達は物づくりをできる人が多いのですが、最近僕らの後に続くように次々と農業をはじめているんです。協同で農地を借りてシェアしていたり、本気でイチゴをやる人は補助金を借りてハウスを建てるなど、人によって目的はさまざまですが、お互いに助け合える得意分野を持っていたりするので、たいていのことは仲間内でできてしまいますね。

真穂さん 東京にいる時の友達はどうしても仕事関係が中心だったけど、今は同じことを好きな人とつながっていけます。先日、イベントに出店した時に出会った方は北海道で月の満ち欠けを見ながら有機で農業をされているのですが、そのトウモロコシの美味しさが半端なかったんです。来年は勉強させてもらいに農場を訪れてみる予定です。

これから栃木市で農業や飲食店をやろうとする方にメッセージを。

正明さん 先ほども言いましたが、最近ここで農業をはじめている人も目的はそれぞれ。僕たちは“ほぼ自給自足”の生活に変えることで、たくさんのものを得ることができましたが、例えばサラリーマンを辞めることで安定した給料とか冬のボーナスとか、失ったものがあるのも事実です。何を得て何を失うのか、その感じ方はその人次第ですし、やってみないと絶対にわからないこと。興味があるなら、踏み出してみてはいかがでしょうか。

真穂さん とは言っても、私たちが目指している生活はかなり極端なのも事実です(笑)。栃木市は東京も近いので、「0か100か」ということでなくても、バランスをとりながら新しい生活をはじめている方もたくさんいらっしゃいます。そして、飲食店をやってみたいと思っている方には、栃木市はほんとうにオススメです。風情のある建物がたくさん残っていて、家賃が安いのに、東京ではつくれないようなオシャレなお店を持つことができます。最近は若い人も集まってコミュニティになっているので、うちのお店もたまにライブ会場みたいになっていますよ。私たちは、お金のために働くよりも、生きることそのものを楽しみたいという思いで今の生活を選びました。どこに比重を置くかは人それぞれですが、栃木市で暮らすことで、東京と比べて「生きることを楽しむ」という要素が大きくなるのは確かだと思います。

ページトップへ